「最近、物忘れが増えてきた」
「同じことを何度も聞くようになった」
「以前できていたことが、うまくできなくなった」

こうした変化があると、「もしかして認知症では?」と心配になる方も多いと思います。

しかし、物忘れがあるからといって、すぐに認知症と診断されるわけではありません。
認知症を疑う症状がある場合、まず重要なのは、認知機能を低下させる別の病気が隠れていないかを確認することです。

たとえば、
・甲状腺ホルモンの異常
・ビタミン不足
・電解質(ミネラル)の異常
・感染症
・自己免疫疾患
・薬剤の影響
などによっても、物忘れや認知機能の低下がみられることがあります。

また、「正常圧水頭症」や「慢性硬膜下血腫」など、脳の病気によって認知症に似た症状が現れることもあります。

これらの中には、原因を治療することで症状の改善が期待できるものがあります。

まずは、「治せる認知症がないかどうか」を確認することが大切です。

認知症にはどんな種類がある?

認知症の原因となる代表的な病気には、次のようなものがあります。

① アルツハイマー病
② レビー小体型認知症
③ 血管性認知症
④ 前頭側頭葉変性症

それぞれについて簡単に説明します。

① アルツハイマー病
アルツハイマー病は、認知症の原因として代表的な病気です。
脳の中に「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が異常に蓄積することなどが、病気の進行に関係していると考えられています。
初期には、
「少し前に聞いたことを忘れてしまう」
「同じことを何度も質問する」
「物をどこに置いたのか分からなくなる」
といった、新しい出来事を覚えることの難しさが目立つことがあります。
進行すると、時間や場所が分からなくなったり、物事を判断したり計画したりすることが難しくなったりします。
さらに進行すると、着替えや食事など、これまで自分で行えていた日常生活にも支障が生じることがあります。

② レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、「αシヌクレイン」というタンパク質を主成分とする「レビー小体」が神経細胞に蓄積することと関連して起こる認知症です。
物忘れだけでなく、特徴的な症状として、
・実際にはいない人や動物などが見える「幻視」
・「しっかりしている時」と「ぼんやりしている時」の差が大きい
・動作が遅くなる、歩きにくくなる、手が震えるなどのパーキンソン症状
・寝ている間に大声を出したり、手足を激しく動かしたりする
といった症状がみられることがあります。
最後の症状は「レム睡眠行動異常」と呼ばれ、レビー小体型認知症の発症前からみられることもあります。
ただし、これらすべての症状が現れるわけではありません。
症状や診察所見に加え、必要に応じて画像検査や核医学検査、睡眠に関する検査などを組み合わせて診断します。

③ 血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳がダメージを受け、認知機能が低下した状態です。
症状は、脳のどの部分が障害されたかによって異なります。
物忘れがみられることもありますが、
「計画を立てる」
「順序立てて行動する」
「状況に応じて行動を切り替える」
といったことが難しくなる「遂行機能障害」が目立つこともあります。
そのほか、歩行障害、飲み込みにくさ、言葉の出にくさなど、さまざまな症状が現れる可能性があります。

④ 前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症は、脳の中でも主に「前頭葉」や「側頭葉」に神経変性や萎縮が生じる病気の総称です。
ほかの認知症と比べて若い年代で発症することもあり、65歳未満で発症する「若年性認知症」の原因の一つでもあります。
アルツハイマー病のような物忘れよりも、
・以前と性格が変わった
・周囲への関心がなくなった
・同じ行動を何度も繰り返す
・社会的なルールを守ることが難しくなった
・言葉が出にくくなった
といった、行動や性格、言語の変化が目立つことがあります。
タウやTDP-43などの異常なタンパク質が関係することが知られていますが、その病態については現在も研究が続けられています。

ここまで読んで、
「それなら脳に異常なタンパク質があるかどうかを調べれば、すぐ診断できるのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、認知症の診断はそれほど単純ではありません。
通常の診療で脳の組織を採取し、顕微鏡で異常なタンパク質を確認することは現実的ではないため、
・どのような症状があるのか
・いつ頃から始まったのか
・どのように進行しているのか
・日常生活にどの程度影響しているのか
・認知機能検査の結果
・血液検査
・CTやMRIなどの画像検査
といった情報を総合して診断していきます。
ご本人だけでなく、ご家族など普段の生活をよく知る方からお話を聞くことが診断の手がかりになることもあります。

アルツハイマー病の新しい治療薬について

近年、アルツハイマー病の診断と治療は大きく変化しています。
従来は症状を和らげる治療が中心でしたが、現在では、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)や軽度認知症の一部の患者さんに対して、脳内のアミロイドβに作用する新しい治療薬が使用できるようになっています。

まとめ:物忘れが気になったら「認知症かどうか」だけでなく原因を調べることが大切です

年齢を重ねれば、誰でも多少は物忘れが増えてきますが、一方で、
「同じことを何度も聞くようになった」
「薬の管理ができなくなった」
「料理や買い物が以前のようにできなくなった」
「性格や行動が以前と変わってきた」
「道に迷うようになった」
など、これまでできていた日常生活に変化が出てきた場合には、単なる加齢による物忘れではない可能性があります。
また、認知症のように見えても、別の治療可能な病気が隠れていることもあります。
「物忘れ=認知症」と決めつけたり、「年齢のせいだから仕方がない」と諦めたりせずに、気になる変化が続く場合には、早めにご相談ください。

【参考】
日本認知症学会
厚生労働省「アルツハイマー病の新しい治療薬について」